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2020.08.24

持続可能な経済の追求、地方で加速(Satoyama推進シンポジウム2020 &「進化する里山資本主義」出版記念イベント)

持続可能な経済の追求、地方で加速(Satoyama推進シンポジウム2020 &「進化する里山資本主義」出版記念イベント)

青森県むつ市はもともとある資源を利用する循環型の地域経済活動を実践している。このような経済を実現するための活動やプロジェクトは、6年前に宮下宗一郎氏が市長に就任してから加速した。

「地域全体をどう循環に巻き込むか、取り組みをどう発信していくかを考えることが大切です」と、宮下氏は5月31日にジャパンタイムズ里山推進コンソーシアムが開催したオンラインシンポジウムで語った。

このイベントは、ジャパンタイムズ出版による『進化する里山資本主義』の出版を記念して開催された。里山資本主義とは、2013年に出版された『里山資本主義』という本の中で紹介された新しい資本主義の考え方で、既存の天然資源を利用した持続可能で循環型の地域経済の構築に基づいている。里山は地域住民によって利用され、維持されている山や森を指し、里海は人間が関わることで生物多様性を維持している海や沿岸の環境を指す。

むつ市は、『進化する里山資本主義』の第4章で地方コミュニティの活性化を目指す自治体の取り組みの、先進的な事例として取り上げられた。

むつ市の面積は東京23区の1.4倍で、豊かな自然や年間約20万人が訪れる恐山などの観光地に恵まれている。しかし、人口は現在56,000人で減少傾向にある。

陸と海の資源を守る

むつ市が位置する下北半島は80パーセントが森で覆われている。雪解け水は栄養豊富な腐葉土を通過して地面に染み込み、川に流れ入る。ホタテや鮭、イカ、ナマコ、タラなどの高品質な海産物で知られる陸奥湾や近隣の漁場の海洋環境は、このミネラル豊富な水によるところが大きい。

択伐で日光が地面まで届き、健康な森が維持されている。

「むつ市では、間伐材で炭を作り、その炭は漁師が冬に漁船の上で暖を取るのに使われています」と宮下氏。

自然の恵みは一方向だけに行くのではない。貝殻やイソギンチャクなどの養殖による残渣はコンポスト化され、むつ市の特産品であるワイン作りのためのブドウ栽培に活かされる。また、漁師たちは毎年、この資源の循環を守るために森での植樹活動を行っている。

宮下氏は、若い世代が将来、故郷の活性化に参加してくれるよう、地域資源の循環を自分で体験させることが重要だと話した。里山や里海の資源を活用するビジネスを作り、サポートすることでこの循環を維持し、誰も取り残されることなく全ての人が豊かな人生を楽しめる社会を作りたいと考えている。

「ここでは仕事が無いと言って若い人たちは町を出ていくのですが、ここで自分で仕事を作ればいい、と後押ししていきたいです」と宮下氏。

また、都市に住むことが必ずしも誰にとっても良いわけではないということに人々が経験から気づき、新型コロナウイルスの危機に直面して新しいライフスタイルに適応するためできることを探し始めている今こそ、働くために地方を離れるのではなく、地方で仕事を作るという考え方にシフトしていくチャンスだと語った。

危機に直面する市民への支援

新型コロナウイルスの危機の中、むつ市では市民を支援する様々な取り組みも行われている。宿泊業者への資金支援を実施し、市内にある下着工場と協力して製造したマスクを市民に配布したり、感染から顧客や従業員を守るために必要な取り組みを行っている店舗を認証する制度を構築したことなどが含まれる。また、青森県外に住むむつ市出身の学生に箱詰めした特産品を送るための予算を計上し、役所の業務を一部遠隔で行ったりもしている。

「いろいろな経験を組み合わせて新しい未来をどう作っていくかを考えるチャンスを与えられていると思います」と宮下氏。

地域や自治体の取り組みについて宮下氏が語ったのに対し、岡山県真庭市の一般社団法人アシタカの代表である赤木直人氏、山口県萩市で萩大島船団丸を運営する株式会社GHIBLI代表取締役の坪内知佳氏、岩手県盛岡市の株式会社浄法寺漆産業代表取締役の松沢卓生氏は、事業主の視点から地域資源の持続可能な活用について、6月7日に開催された、5月31日と同じシンポジウムの一部であるトークセッションで語った。

小規模事業の利点

アシタカの赤木氏は真庭市の北東に位置する中和という地域で14の小規模な事業を運営している。

「これらの事業は次の3つに分類できます。地域資源を活用したもの、地域の自治につながるもの、この地域を他の地域や人とつなげるもの、です」と赤木氏。

公営の温泉宿と地元の山主をつなげて、宿のボイラーに薪を提供したり、地元の植物や野菜を使って季節のグルメを作ったり、移住してくる新しい住民が住めるよう空き家を管理したり、竹筒燃料の作り方を教えたり、自然公園の運営をしたり、教育目的のツアーを実施するなど、様々な事業がある。

「なぜこんなにたくさんの小さなプロジェクトをやっているかというと、こうしていろいろなものを少しずつ利用する、また旬の時だけ利用することで、特定の資源を使い尽くしてしまわないようにするためです」と赤木氏。

日本中の船団や漁師にコンサルティングサービスを提供するGHIBLIの坪内氏は、漁業においても資源の管理が持続可能な経営の鍵となると述べた。坪内氏率いる萩大島船団丸の線団員は、漁獲の全てを漁協に出すのではなく、一部をホテルやレストランなどに直売している。これにより、漁師が自ら値付けできるようになり、漁協に一任するよりも利益を上げることができた。

「このやり方により、多く獲ることが利益率を上げるわけではないこと、経営の持続可能性のために海洋資源を守らなければならないことを漁師たちが自覚できるようになりました」と坪内氏。

萩大島船団丸の場合、新型コロナウイルス危機の最中でも、ホテルやレストランの売り上げの減少分を個人客の注文が埋め合わせている。「しかし多くの船団が苦しんでいる状況です。新しい販路や経営スキルへのシフトが、事業を持続し、日本の漁業文化を守るためには必要です」と坪内氏は語った。

文化の保存

文化を守るという点では、松沢氏が代表を務める浄法寺漆産業の事業は日本の漆の伝統の生き残りに直結するものである。この会社は漆の販売とプロモーションの他、漆の生産に関わる研究開発にも取り組んでいる。

「日本で使われている漆の97パーセントが海外から輸入されています。国内で生産されているものはたったの3パーセント程度で、その75パーセントが岩手で作られています」と松沢氏。特に、国の重要文化財の修理用に高まっている国産漆への需要に応えるため、松沢氏は漆掻き(幹に切れ目を入れて漆の樹液を集める従来的な手法)にはまだ早すぎる若い木からも漆を抽出できる、衝撃波を当てて漆の木の細胞を壊す方法を試験中だ。

「漆はプラスチックと同じくらいの強度がありますが、紫外線で分解可能です。多目的に利用可能な環境に優しい素材として漆の価値が再確認されることを願っています」と松沢氏は言う。

この議論を通じて、里山や里海の分野で持続可能な進化は進んでいるものの、このような取り組みを広げていくためにはさらなる努力が必要であるということが明らかになった。

本記事は、The Japan Times 本紙に掲載された英文記事の和訳です。
原文はこちら(英文)
https://www.japantimes.co.jp/satoyama-consortium/2020/08/03/satoyama-consortium/local-economies-leaning-sustainability/

新刊「進化する里山資本主義」(外部リンク)
https://bookclub.japantimes.co.jp/book/b510564.html

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