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2020.09.08

都市の住民、地方産業の維持に貢献(Satoyama推進シンポジウム2020 &「進化する里山資本主義」出版記念イベント)

都市の住民、地方産業の維持に貢献(Satoyama推進シンポジウム2020 &「進化する里山資本主義」出版記念イベント)

山口県、周防大島にある瀬戸内ジャムズガーデンは、地元の農産物で作ったジャムを観光客に販売したり、東京在住・在勤のウェブマーケターの助けでネット上でも販売することで、地域経済に貢献している。6月14日にジャパンタイムズ里山推進コンソーシアムが開催したオンラインシンポジウムの中で、瀬戸内ジャムズガーデンのオーナー、ウェブマーケター、そしてもう一人のパネリストは、このような地方と都市の住民の協力がどのように地域を活性できるかについて議論を交わした。里山とは近隣のコミュニティーの住民によって共有、維持されている山や森を指す。

「どういうことがやりたいかによって場所を選べる時代。これはコロナ時代だからこそ生かすべきです」と瀬戸内ジャムズガーデンのオーナー、松嶋匡史氏は話した。

京都出身で中部地方にある電力会社に勤務していた松嶋氏は、2007年に瀬戸内ジャムズガーデンを設立した。妻が周防大島の出身で、義父は島の寺の住職である。松嶋氏は新婚旅行で訪れたパリで入った店で、棚に何百ものコンフィチュールの瓶が整然と並べられている様子にすっかり魅了された。周防大島には農協に出すには大きさや形が揃っていないために売れない作物があり、売れずに困っている地元の農家からすぐに材料を仕入れられるため、この島でジャム事業を始めることを決意したという。

「当初は、将来的に数人がいっしょに働いてくれるようになれば、と思っていましたが、すでに今26人の従業員がいます。100年続く産業の基盤ができてきたかなと思っています」と松嶋氏。

既存の資源を活用する

松嶋氏の成功の理由の一つは、前職を辞める前に充分な準備をして、既存の資源を活用した点だ。まずは義父の寺の一角で事業を開始し、地元の農家と親しくなり、その後工場を建てて店舗やカフェを増設していった。

松嶋氏と大手通信会社の正社員であるウェブマーケターの野島拓也氏は、東京に拠点を持つNPO法人ETICを通じて知り合った。ETICは、地方と都会とを様々なプロジェクトや活動でつなぎ、地方の発展や活性化を支援するためのプラットフォームの役割を果たしている。野島氏は東京にいながら空き時間を使って瀬戸内ジャムズガーデンのウェブサイトを改善し、ウェブマーケティングサービスを提供し、また知名度を上げて売り上げを伸ばすウェブマーケターとして、瀬戸内ジャムズガーデンと契約を結んだ。自分が生まれ育った都会以外での暮らしについて、これまで意識したことがなかった野島氏だが、地方と都会の生活における様々な違いが見えてきたと話した。

「ここ東京では格差が広がり、みんなスマホに釘付けで数字ばかり追いかけています。2年前に周防大島と瀬戸内ジャムズガーデンのことを知ってから、東京での生活というのは本当に持続可能なのだろうかと思うようになりました」と野島氏。「一方、周防大島では、50年後にすでに松嶋さんはいなくても、松嶋さんと関わった人がちゃんと、松嶋さんが地域のためにやってくれたことを引き継いでいると思うのです」と野島氏は語った。

ネットでの販売促進

野島氏の最初の松嶋氏との仕事は予想外の形で始まった。2018年10月22日、ドイツの貨物船が、島と本州をつなぐ大島大橋に衝突し、1ヶ月以上にわたり橋が通行止めになり、水道も止まってしまったのだ。

この事故により、店やレストランなど島全体の観光業が大打撃を受けた。苦しむ観光業界を助けるため、野島氏は瀬戸内ジャムズガーデンの商品だけでなく、地元で作られた様々な食品を販売するウェブサイトを開設した。

「最も大変だったのは、商品を宣伝する前に、松嶋さんに壊れた橋や井戸で水汲みをする人の写真を送ってもらって、まずは周防大島で何が起こっているかを伝えるところから始めなければならなかったところです。東京や周防大島から離れている日本の他の地域では、事故のことや周防大島が直面している問題について、ほとんど何も報道されなかったからです」と野島氏。

新型コロナウイルスという危機に直面している今の状況は、周防大島がこの貨物船衝突事故の後、観光客による消費が激減して陥った状況と似ている。松嶋氏によると、今年のゴールデンウィークの売り上げは、前年同時期の売り上げの10パーセントまで落ち込んだという。

困難な時期の新プロジェクト

しかし、松嶋氏は状況が改善するのを待っているだけではない。

「今は耐え忍ぶときですが、固定費が安いので耐えられなくはないと思います。これが地方のいいところです。時間があるうちに、レモンの木のオーナーを募集していっしょにレモンの木を植えて育て、そのレモンでリモンチェッロを作るというプロジェクトを企画して準備しています」と松嶋氏。レモンの木のオーナー達とともに、2年後にはレモンを収穫してリモンチェッロを作り、新型コロナウイルスに打ち勝って乾杯したいと熱意を語った。

木のオーナーになるという貢献の仕方

3人のパネリストのうちの一人で、日本総合研究所の主席研究員でありJapan Times Satoyama推進コンソーシアムのアドバイザーでもある藻谷浩介氏は、木のオーナーになるということも地方を活性化する活動に参加する一つの方法だと述べた。

「こういった活動に参加するために、専門家である必要はありません。地方の小さなコミュニティでは、自分が起こした小さな変化が誰かに気付かれ、感謝され、次の世代にまで受け継がれるかもしれません。都会では全てのものが誰にも気づかれずに消えていってしまいます」と藻谷氏。

野島氏もこれに同意し、「ウェブマーケターとしてのスキルは持っていますが、瀬戸内ジャムズガーデンのために必要なことの70パーセント位は今までに自分がやったことがないことなのです。自分の成長にもつながります」と述べた。

また野島氏は、地方活性化に関わるには様々な方法やプラットフォームがあると話した。

「どう関わりたいか、どう貢献できるかを考えなければなりません。また最も重要なのは、続けるために誰とつながるか、ということです」と野島氏。

地方活性化の活動を続けるためには、お金も重要な要素だと野島氏は言う。「例えば、みかん農園のお客さんと売り上げを増やそうと、みかん狩りを一人300円の価格に設定したとしましょう。安いので大勢が集まるかもしれませんが、一時的なものに終わるでしょう。続けるためには、利益を上げるために価値を高める一工夫をすることが必要です」と野島氏は言う。

松嶋氏や野島氏のように、地域外の人の方が、その地域に元々ある価値を見つけ、それにどんな付加価値を与えれば良いかを発見することに長けているのかもしれない。藻谷氏もこう述べている。「自分のふるさとについて、自分では気づかないようなものを、外から来た人が財産だと気づくということもあるのです。」

「地方のコミュニティーを支援してくれる地域外の人を集めることが簡単になってきています。東京は東京以外の人も味方につけています。これを地方もやるべきです」と藻谷氏はセッションの終わりで述べた。

本記事は、The Japan Times 本紙に掲載された英文記事の和訳です。
原文はこちら(英文)
Urbanites work to help sustain rural areas
https://www.japantimes.co.jp/satoyama-consortium/2020/08/26/satoyama-consortium/urbanites-work-help-sustain-rural-areas/

新刊「進化する里山資本主義」(外部リンク)
https://bookclub.japantimes.co.jp/book/b510564.html

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